私とオリーブオイルとの出会い
『きっかけ』の話
手に入りにくかったオリーブ農園情報
オリーブオイルの輸入なんて、考えていませんでした。
輸入は大変だし、そのあとの管理はもっと大変。販売するなんて私にはできないし、そもそも面倒・・・
ところが、
オリーブオイル・プランナーとして様々なお仕事を頂くことが増えていく中で、
楽しくて深いオリーブオイルの世界を皆様により分かりやすく、そして正しくお伝えするためには、
品質に自信が持てるオイルが必要なのはもちろんのこと、そのオイルのストーリーを自分がよく理解した上でお話をしたいと強く思うようになっていきました。
当時、オイルの仕入れ先の方に農園情報を聞いても、案外よくご存じではないケースがあり、
オイルを輸入していても農園を訪問したことがない担当者も沢山いらっしゃいました。
オリーブオイルのテイスティング技法も知らない方が少なくありませんでした。
オリーブオイルには作り手がいます。
しかも代々その地に住み続け、受け継がれた家業としてオリーブ農園を営んでいる方も多く、家族の歴史と共に、農園の歴史も持っていらっしゃいます。
その土地ならではの苦労話、頑なだったおじいちゃんの話、自分が受け継いでから農園を改革してきた話、伝統的な作り方、娘が生まれたときに植えたオリーブの話・・・彼らは沢山のストーリーをお持ちなのです。
そんな楽しいお話をしたいな~と思っていました。まるで一緒に農園に行ったかのような気分を味わってほしかった。
でも、あの頃は情報が少なくて・・・いつも心残りでした。
納得できる仕事がしたかった。
いったことがない人が、私の話を聞いて想像して楽しんでもらえるような、そんなセミナーがしたかった。
そこで、仕方なく少量の輸入を始めました。
オリーブ農園巡りの始まり
お付き合いする農園はトコトン探しました。最初は本当に手探りでした。
どうやって農園を探せばいいのか分からないまま、知り得た情報をもとに、あちこちへ・・・。
足を運ばないと味わえないオイルは沢山存在しています。隠れた良いオイルに出会いたくてー。
オリーブの樹は、何千年と生きる生命力を持ちます。
それだけ力のあるオリーブだから、きっと語り掛けてくる・・・
そう思ったので、自分の感情を手放し、感じるままにたくさんの農園を巡って自分の足でオリーブ畑に立ち、生産者とゆっくり時間を過ごしました。
そんな中、イタリアで出会った、ある農園のオイルを3年間食べ続けてみました。
どんな年も本当に美味しい。
天候まかせのオリーブ栽培なので、ワインのように毎年風味が異なりますが、どの年もとても美味しかった。
そのオイルの生産者は、大きなおなかのサンタクロースのような生産者。イタリア人らしからぬ(!)寡黙な方でした。
彼が作り出すオイルにいつの間にか惚れてしまい、輸入を決めました。
初めて輸入した農園は、南イタリアのかかと、プーリア州に位置するレ・トレ・コロンネ農園。
まさかこんなに長いお付き合いになるとは思いませんでしたが、彼らから多くの事を学び、彼らと過ごす中でオリーブオイルの世界にさらにのめり込みました。
仕方なく、自分のために始めた輸入でしたが、
予想をはるかに超える多くの方がオイルを気に入ってくださり、驚きながらも少しずつ販売をスタートさせました。
農家との約束 『なぜうちのオイルなの?』
私にとっては大きな決心!輸入を心に決めて農家さんにその気持ちを伝えたところ、彼は表情を変えなかった。
私は、日本との初取り引きとなる私の輸入を手放しで喜んでくれると思ったので、その反応が意外でした。
そのあと、彼からの質問が始まりました。
『なぜうちのオイルなの?』
答えるとまた質問を繰り返してきました。
彼らと話をしていくうちに大切なことに気が付きました。
オイルが売れてお金が入ればそれでいい、という考えではなかったのです。
彼らは自分たちのブランドや品質を落とさずに扱ってくれる人を探していたのです。
大切に作ったオイルが、遠く離れた国でどのような扱いをされるのか、とても気に掛けていました。
なるほど。
私が始める輸入というのは、オイルと共に彼らのプライドや品格も一緒に預かることであり、
同時にオイルの品質も守っていかなければならない仕事なのだ、ということを感じました。
彼らが求めていた輸入者というのは、お金を支払ってくれる人ではなく、自分たちと自分たちのオイルの理解を諦めない人のことでした。
なんという誇りなのだろう!!
私が抱いているオイルへの想いと、3年間、彼のオイルを食べ続けて感じたことをゆっくり何度も伝えました。
ようやく最後になって彼は静かに微笑み『ヒロミに託したい』そう言ってくれました。
こうして、絶対に手を出さないと決めていた輸入を始めました。
もうこの頃には、ワクワクして楽しみで仕方ありませんでした。
オリーブオイルに関わる仕事をしたい人たちへの想い
ずーっと心に秘めていた思いがあります。
私がオリーブオイルに関わる仕事をしようとしていた時に悩んでいたこと、それはオイルの情報がなかなか手に入らなかったこと。
自分で輸入したオイルを使って仕事が出来れば一番やりやすいけれど、輸入は大きなリスクが伴う事ですし、だれもが気軽に出来ることとは言えません。
だから、せめて私が取り扱っているオイルを使って販売やセミナーなどをやってくださる方は、可能な範囲で出来る限りの情報を提供をさせて頂きます。
自信を持って楽しく仕事ができて、一方で、楽しくオイルを買えたなら、皆がハッピーな気がする。
取り引きさせて頂いている農園を日本で一番知っているのは私だからこそ、出来ることがあると思いました。
もともと販売がしたくて始めた輸入ではなかったあの頃を思うと、そういう想いが湧いてきます。
オリーブは古くから人と人を繋げる平和のモチーフ。
沢山の人が楽しく繋がっていけたら嬉しいなと思います。
BIO(ビオ)オイルについて
様々なオリーブオイルと出会っていく中で、BIO(ビオ)オイル、つまり無農薬オイルに興味が沸きました。
無農薬オイルは割と沢山存在しています。
しかし、
何もしないから無農薬、という作り方をしている農園と、
無農薬栽培法でオリーブ畑の世話をしている農園では、出来上がるオイルの質は大きく異なるのです。
無農薬栽培は本当に手間がかかります。
時には、オリーブ栽培に向かない天候が続くこともある。
オリーブは植物。整わない環境下では病気にもなるし、虫も付き、時には枯れてしまう。
自然をコントロールするものではなく共存していくもの。
BIO栽培は生産者の深い愛情と情熱なしではできないことなのです。
数多くのBIO栽培の生産者と出会っていくうちに、無農薬栽培の生産者の周囲には品質にこだわった様々な業界の食のプロがいることを知りました。
彼らと出会っていくうちに、無農薬の難しさと大切さを知りました。
無農薬でないオイルも、素晴らしいオイルは沢山ある。
でも、より栽培が難しい無農薬で高い質を保つオイルもまたとても素晴らしい。
自分の成長のためにも、より志が高い生産者と仕事がしたいと思っています。
そして質の高い無農薬オイルのおいしさを、そして安心感をたくさんの人に知ってもらいたい。
彼らが愛する土地や農園のストーリーと共に。
空輸にこだわった
取り扱うオイルはほぼ全てイタリアとトルコの農園から直接空輸。
オイルを日本に運ぶ方法は3つ。
- 船便で温度コントロールなしのコンテナで運ぶ方法。最もコストが安い。
- 船便で一定の温度でコントロールされたコンテナ(リーファー)で運ぶ方法。
- 空輸で運ぶ方法。最もコストが高い。
船便は日本に到着するまで、最長で2ヶ月ほどかかります。
空輸は1日で届く。
オリーブオイルは油なのでカビも生えず、腐りません。
ですが、目に見えなくても瓶に入ったらゆっくりと劣化へと向かっています。自然な現象、経年劣化です。
可能な限り高品質を保ち、イタリアの畑から最短で皆様のお手元に届けられるよう、空輸にこだわっています。
保管について
オイルが酸化(劣化)する大きな原因は、光。そして熱と空気。
空輸で輸入しても、その後の保管方法が良くないとオイルの劣化スピードが上がるため、オイルは当方で保管し、光を避けて暗所にて10~20℃で保管。
農園で食べた風味をそのまま皆様にお伝えしたいので、可能な限り最良の保管を心がけています。
中村裕美 Hiromi Nakamura プロフィール
2004年、趣味でイタリア料理が作れたらいいな~、
そんな軽い気持ちでイタリアへ料理留学したことがきっかけで、帰国後にOLをしながら週末に料理教室をはじめることになりました。
当初、油の知識が乏しかった私は、
オリーブオイル=イタリア料理に使う油
その程度に思っていました。
趣味で始めた料理教室の生徒さんが徐々に増えレッスン回数が増えていく中で、オリーブオイルが変わると料理の風味が変わることに気が付き、疑問がわきました。
オリーブオイル=料理の風味を変える油??
オリーブオイルに興味が沸き、2009年にイタリアAISOにてオリーブオイルの資格取得のコースを受けました。
オリーブオイルの奥深さに触れて驚き、オリーブに関わる仕事が多岐にわたることにもびっくり。
もっと知りたい!そう思いました。
それ以降、いくつかの異なる団体で同じようなコースを繰り返し何度も受けました。
5回目か、6回目のコースでイタリア人講師に言われました。
『君は何回目?君を何度も見かけているけど、なぜそんなに何度も受けるの?』
理由はいくつかあったけど・・・『情熱が止まりません♪』と答えたら、これをやってみないか、とオリーブオイルにまつわる仕事に誘われました。
以降、国際的なオリーブオイルコンテストにも関わるようになりました。
今でもオリーブ農園を巡っていますが、オリーブやオリーブオイルを多角的に見ることが出来るようになり、お話できることも増えてきました。
日本でもオリーブオイルは定着しつつあります。
これからも、たくさんの方に美味しいオイルと正しい知識を伝えていきたいと思っています。オイルや生産者のストーリーと共に。
皆様、よろしくお願いいたします。
中村 裕美 hiromi nakamura