樹齢800~1000年のオリーブの樹をたくさん保有するモッジカート農園 (Azienda Mozzicato) をご紹介します。
古木と呼べる彼らのオリーブの樹は、1000年もの間、毎年秋になると欠かさずにオリーブの実をつけてきました。
これってすごいことだと思いませんか?
彼らの農園は南イタリアのシチリア島にあり、有名なベスビオ火山より東南のシラクーザ県にあります。
オリーブの健康や成長に必要な日照時間や強い日差しが十分なエリアなので、オリーブ栽培にとても恵まれた土地です。
オリーブの樹を代々受け継ぎながら家族経営をしているモッジカート農園さんを初めて訪問した時、農園主ミケーレさんは、私をオリーブ畑に案内してくれました。
彼らのオリーブ畑には、牛が沢山放牧されているのですが、
牛とオリーブの樹がとっても絵になる風景で、思わずほっこりしてしまい、見とれながら歩いていると、ミケーレさんから、
『下を見て歩いて!』
と言われ、慌てて足元を見ると、あちこちにトラップのように牛の落とし物(!)が!
日本から変えの靴は持ってきていなかったので
踏まないように牛の落とし物を避けたりジャンプして飛び越えたりと、最初は下ばかり見て歩いていました。
すると、地面を見ている私の目に飛び込んでくるのは野生のハーブ、野生のアーティチョーク、様々な野草たち!
野菜畑で柔らかく育ちそうな野菜たちが、ワイルドないで立ちでオリーブ畑のあちこちで生えていました。
トゲがあるものは、そのトゲがとても力強くて、簡単に触らせてもらえないほどの迫力です。
そんな力強さのある畑の中で、主のように鎮座する樹齢1000年のオリーブたちの堂々とした風格に、神聖さを感じずにはいられませんでした。
日本に住む私にとって、どの木も神社の御神木に見えてしまうのです。
これまで沢山のオリーブ農園を見てきました。
でもこちらの農園ほど力強さと温かさを同時感じる畑にはなかなか出会えるものではありません。
そんな大きなオリーブの中には、内部に空洞が生まれる樹もあります。
その一つのオリーブの樹の中に収まる、という初体験をしました。
大自然に包まれる感覚で心が無になります。
樹の中はとても静かでした。もっと収まっていたいくらい居心地が良い。(落ち込んだ時はぜひ収まりに来たい笑)
こんなすごいオリーブたちから作られるオリーブオイルに興味深々。
食べずに日本に帰るなんて、もはや無理!と感じるほど、
どうしてもこちらの農園のオリーブオイルの搾りたてが食べたいっ!と思いました。
オリーブ農園を歩きながら、農園主のミケーレさんは私にいろいろなことを教えてくれました。
印象的だったのは、
『オリーブは何も変わらない。変わっていくのは人間だ』という言葉。
今でも覚えています。
1952年に農園としてオリーブ栽培をスタートさせたモッジカート農園。
先代のおじいちゃんの代までは、時代的にオリーブやオリーブオイルに対する研究が追いついておらず、
オリーブ農園の仕事は、油の品質よりも、どれだけ沢山の量を搾れるか、が大事な時代でした。
現在の農園主ミケーレさんの代になってから、機械を入れ替え、量より質を求めるスタイルになり、独自の研究も始まりました。
彼らが造り出すオリーブオイルは毎年品質が高い状態で安定しています。
それは、オリーブの樹が大木のため、ひどい乾燥が続いても、滅多にない大雨が続いても、高温な気温が続いても、ほかの農園のオリーブの樹に比べると影響が少ないからなのです。
そしてもう一つあります。でもこれは彼らのノウハウ。ここで公開は出来ませんが、自然の摂理を上手に活用した、大地に負担がないどころか、むしろとても良いやり方を彼らは守り続けています。
秋になるとたわわに実るオリーブの収穫が始まります。
年に一度、9月末頃から11月頃に収穫されるオリーブの実は、その日のうちに自社工場にてオリーブオイルになります。
すぐに空気に触れない真空の状態でタンクの中で保管され、自社の低温倉庫で管理されます。
それぞれのタンクには収穫時期なども丁寧に記録され、ただ売れるまで置いておく倉庫ではなく、彼らにとって研究も兼ねた保管庫です。
農園側での保管状態でオリーブオイルの品質は大きく変化しうるため、どのような保管をしているのか、輸入を決める前に私は必ず自分の目で確認し、テイスティングで風味も確認し、この品質ならば!と確信を持った場合のみ輸入のお話をさせていただいています。
これだけは毎年欠かしません。
私は初めて農園を訪問して以来、(コロナ禍を除き)毎年収穫の時期には農園にお伺いしております。
2023年に世界中で起きた異常気象はイタリアも例外ではなく、その秋の収穫時には、世界的にオリーブ果実の収量大激減、品質の著しい低下を叫ぶニュースは日本でも報道されたほどでしたが、モッジカート農園のオイルは、むしろ過去一番かと思うほどに、美しく仕上がっていました。
この年、すぐ近くの別の農園さんは、歴史的な水不足という天候を理由にオリーブの実の生育が著しく悪く、オリーブの実の収穫量も大幅減、出来上がったオイルも品質が低すぎるとお話されていました。
オリーブの樹の育て方、土づくり、そして収穫時期の見定めと搾油機のコントロールなど、あらゆるポイントをパーフェクトに対応できた農園が、良質なオイルを作り出せます。
搾れば誰でも良質なオイルになることは、あり得ないのです。
だからこそ、樹齢が長く、且つ手入れをされた健康なオリーブの樹は、異常気象にも耐えられるということ、
そして耐えられるようにオリーブの樹を育ててきたモッジカート農園の皆さんの本当の腕の凄さを改めて知った年となりました。
私が滞在している間にもオリーブオイルは毎日たくさん出来上がり、
搾ったばかりのオリーブオイルがおいしすぎて、生産者の皆さんと手を叩いて一緒に喜んだほどです。
モッジカート農園では、1粒のオリーブ果実から搾れるオイルは17~20%程度。わずか数滴です。
若摘みした緑色のオリーブの実を絞ることで、搾油率からは下がります(平均25%)が、
オイルを絞ったときに含まれるポリフェノール含量が最大となり、人間の体に有効に働く栄養を様々含むため、
『食べたほうが良いオイル』に仕上がります。
香り成分も豊富なため、2023年秋に作られたザイトゥーンというオリーブオイルは、チコリやお濃茶のような香りがして、とてもすっきりとした癒される香りに仕上がっています。
日本茶を飲んだことがない農園の方々に、お濃茶の雰囲気を説明するために翌月再度訪問した時にはお抹茶を持参して、茶筅でお茶を点ててお茶を飲んでいただきました。
『あ~ザイトゥーンだ!』というお声が上がり、今年のザイトゥーンの香りも農園のご家族と一緒に私も楽しみました。
ランチはいつもご家族が普段召し上がっている家庭料理をご自宅で一緒にいただいています。
エビやホタテ、イカなどに衣をつけてオリーブオイルで揚げたフリットに、さらに食べる時にオイルを掛けて食べる。
日本人ならなかなか考え付かないこの食べ方が、とてもおいしくて!
後からかけるフレッシュなオリーブオイルが、食べた時に野菜のような青さが口の中で広がり、後味がさっぱりとするのです。
この日はアグルミというオイルを掛けて食べました。
アグルミは、彼らの畑で採れた無農薬のレモン果実とオレンジ果実をオリーブの実と一緒に搾油機に入れてオイルを絞るため、
出来上がったオイルにレモンとオレンジの香りが移り、とにかくさわやかでいい香り!
レモンを絞って食べる香りとはまた違います。これが揚げ物によく合うのです。
翌朝、私は皆さんにちょっとした和食を作りました。
私が作ったお味噌汁に、全員が当たり前のようにオリーブオイルを掛けて食べていました。
お味噌とオイルが良く合う!と、ミケーレさんは、『味噌のスープはお代わりの分はあるか、まだ残ってるか?』、と空いた器を持ってキョロキョロ。
とても気に入ってくれました。
こんな風に、彼らと家族のような時間をたくさん過ごさせていただき、毎年少しずつお互いの理解を深めながら
彼らが作るホンモノのエキストラバージンオリーブオイルと、そしてアグルミというフレーバーオイルを取り扱わせていただいています。
明るくて一生懸命、そして働き者の彼らのオイルが、これからも沢山の方に愛されるオイルになるといいなと思います。